5 生命、細胞とは何か
「生命=生物を特徴付けるのは細胞、細胞膜である」
さて、生物の進化を扱うには「生命体とは何か」という点をはっきりさせる必要があります。生物は生命活動をするので、生命活動をするのはなにか、という点から入ります。この構造体は細胞であり、また組織、器官、器官系、個体、種等々ですが、ここでは細胞と個体を取りあげます。
ここで注意する点は、教科書に書かれている主要な生命活動はほとんどが現生生物のものであり、古生物学的な観点からの生命の特徴は進化をするくらいしかありません。この点に注意しつつ読み進めてください。
まず生命=生物はすべて細胞からなります。最古の化石も藍藻の細胞とその分裂と推定され、細胞から生物の体ができていることはほぼ間違いありません。ですから細胞の一般的な特徴と定義をつぎに明らかにします。
教科書では細胞の定義を次の5項目を挙げることが多いようです。
細胞・生命の特徴
1) 細胞は生命現象(活動)の最小の単位である。
2) 細胞膜を持つ。
3) 集合して群れをなし、種を構成(形成)する。
4) 代謝をする(合成、分泌、自己保存)
5) 自己複製(細胞分裂)をする。
6) 発生し死滅する。
私はこれに古生物学ないし進化学からの問題提起として次の項目を加えたいと思います(むろんこれ以上ありますが、ここでは大まかな点のみ記述してあります)。
8) 刺激に対して能動的に反応する。
:化石長鼻類の広い分布からは彼らが能動的に移動した可能性があります。
9) 記憶する。
:ある種が進化するためには、変化した形質を保存しなければなりません。その保存は核だけではなく細胞質も含めた記憶がなければならないことを示しています(近年はエピゲネシスとして議論なされるようになりました)。これは生体の維持と保護とに深い関係にあります。例えば免疫反応が良い例ではないでしょうか。
10) 嗜好性がある。
:変異の元となる基本的な問題でありながらこれまであまり議論がありませんが、細胞と環境、細胞が多細胞になるときに接着する相手を選ぶ、接着する部位や場所などの選択に重要で、進化にとっても大切な要因です。
11) 位置を占め連携がある。
:特定のニッチ(位置)の認識なければ特定の環境で生きていくことができないし、多細胞となっても細胞の位置認識が大切であり、それゆえに細胞同士が連携できることになります。
生命=生物を規定する重要でもっとも基本的な特徴的性質は細胞膜を持つ構造である、ということにつきます。細胞膜は二重のリン脂質よりなる二層性の対称構造をとり、細胞内外を連絡する構造です。よって代謝する細胞の安定化の基本となるものなのです。
体の特徴(体制の原則)
体は、とくに多細胞生物は細胞の集合体の系として体ぜんたいを捉える必要があります。体は一つの系として、すべての細胞、すべての組織、すべての器官、器官系が相互に連携しつつ調和して働いている、という点がとくに大切です。
この調和や共同作用については、自律神経やホルモンの研究が進みつつありますが(自律神経、ホルモンの体の系としての捉えかたは改めて稿を起こします)、まだ十分に説明されていないようです。しかし、体の一部に変調が起っても体全体の動きが鈍くなり正常な判断ができにくくなるなどの現象や、ちょっとした病気や怪我でも骨や歯に成長線(形成障害の痕跡)が残されることは、体を一つの系としてとらえなければならないことを示しています。このような体(体制)の一般的な特徴(原則)(注:私の研究対象ゆえに脊椎動物に限定されたものですが、植物もウィルスも基本的には同様だと考えています)を次にあげます。
(本稿では「12進化の定義と私の進化論」に、現象としては「歯の形態形成原論」で説明を加えています。参照してください。)
1) 細胞の集団は体制の分節(節状)と階層構造の起源となる。
2) 分節は対称的に配列し、これをもとに平衡性(均衡性)と相補性をもつ。
3) 細胞集団は増加して成長し、癒合し、分離、時に退縮する。
4) 細胞は体内で多様に移動する。
5) とくに多細胞生物は細胞の集団が階層構造(細胞、組織、器官、器官系など)となり階層毎にちがう法則を持つ。
:たとえば、爪や毛は死後も伸びることは、個体が死んでも組織は依然として生きていることを示し、これを支配する法則が違うことを示しています。
6) 多細胞生物(群体を含む)を構成するすべての細胞と階層構造(組織、器官、器官系など)は互いに連携し、調和し、相互に相補的に働く。細胞内の構成要素もまたすべて連携し、調和して働く。
7) 体は周期性、繰り返し構造をもつ。
8) 体を構成する構造はすべて嗜好性(特異性)をもつ。
9) 生物の基本的な原則的構造は地球(宇宙)環境に由来する。
以上の細胞と体制をだいたい主要なものに限って要約すると
1)集合と分節。
2)対称と均衡。
3)律動と調和と相補。
4)階層性と法則。
ということになります。
これ以外にもたくさんの原則があると考えられます。例えば螺旋、拡散あるいは拡大等などです。
これらは個体発生と系統発生を同じ尺度で比較するうえで大切な原則、つまりすべての化石を含む生物で共有する原則で、系統発生と個体発生の相互反映を担保するものですつまりこれらの原則にのっとった現象は異なる時間軸でも繰り返す可能性が高く、それ故に進化につながる可能性が高いのです。
この根拠は、7変異の定着、10進化要因、12進化の定義の体制の原則、で改めて検討します。